院長の著書

■口唇裂・口蓋裂患者の矯正治療 Page4■

[ 3 ]口唇裂・口蓋裂患者における矯正治療の実際

2:各歯列期の治療

A 乳歯列期
治療対象
1、著しい上顎狭窄を伴う反対咬合 2、両側口唇顎口蓋裂で上顎狭窄の著しいもの 3、下顎の機能的変位 4、言語治療上必要なもの

治療法と装置
側方拡大には Arnold、 Harvold、 Porter (W型)などの舌側弧線、ネジつき拡大床を用いる。前方拡大にはこれら装置の改変や弾線付加で行う。

B、混合歯列期
治療対象

1、前歯の不正配列、反対咬合、開咬など
2、上顎歯列狭窄による側方歯反対咬合
3、前後的上顎劣成長と下顎前方位および上下顎大臼歯関係の異常
4、歯幅と歯槽基底の不調和(連続抜歯)
5、歯の異常の確認
6、顎裂部骨移植と同部への歯の萌出/移動

治療法と矯正装置
前歯の配列、被蓋改善には弾線つき床、切歯斜面板、機能的装置、部分的なマルチブラケット法 multibracket technique などを用いる。前歯被蓋が深く被蓋改善時の干渉を除去する場合には、臼歯部咬合拳上板を併用する。上顎狭窄の拡大は、混合歯列前期または後期で側方歯の固定が可能な場合に行い、装置には quad helix や前記の舌側弧線、ネジつき床、上顎急速拡大装置などを用いる。拡大後の保定は必須で、拡大装置をそのまま用いたり、Hawley 保定床を使用する。上顎後退には前方牽引装置(horn つき chin cap、 facial mask)を使い、口内固定には前記の拡大装置、マルチブラケット、 Nance の holding arch などを用いる。

上顎拡大後には顎裂部骨移植を行う。これによって拡大後の保定、鼻口腔瘻の閉鎖、歯の萌出または移動、骨支持による口唇、鼻翼外貌の改善などが得られる。骨移植時期は9歳以後は成長への悪影響がなく、永久犬歯歯根が1/4ないし1/2形成時に行うと、犬歯の自然萌出が期待できる。骨移植時には拡大の後戻りを防ぐため、固定または可撤式の唇側ないし舌側弧線による保定が必要である。 Subtelnyと Vergervikは Chiericiの組織張力による移植骨形成の概念を採用し、骨移植部に拡大力を与えている。移植骨内への側方骨移動には上顎前方牽引、3級または顎内ゴムを用いる。

下顎の機能的前方位や過成長には chin cap を用いる。歯と歯槽基底の不調和には連続抜歯が行われるが、本法の実施に際しては歯の数、形、大きさの異常、筋機能異常、悪習癖、上下顎関係などを考慮すべきである。

C 永久歯列期
治療対象

1、前後的異常:上顎劣成長、下顎の機能的前方位または過成長、前歯傾斜異常などによる反対咬合
2、水平的異常:上顎狭窄による側方歯反対咬合
3、垂直的異常:上顎劣成長とこれに伴う下顎の低位咬合または開咬
4、歯の異常への対処
5、顎裂部骨移植
6、矯正限界を越す症例は顎矯正手術/補綴
7、補綴治療

治療法と矯正装置
上下顎関係の異常は三次元的に現れる。永久歯列期は歯の萌出と顎の成長発育に伴って不正が顕在化し、治療が最も困難な時期である。思春期成長スパートを利用できるが、増齢とともに次第に顎整形効果が減じてくる。したがって歯性の改善が主体となる。

反対咬合の改善にはマルチブラケットによる非抜歯または抜歯治療を行い、3級ゴム、上顎歯の近心移動を目的とした上顎前方牽引、 chin cap による下顎の後下方回転または移動を併用する。上顎狭窄に対しては、軽度の場合にはマルチブラケットの主線や補助拡大線を、高度の場合には前記の拡大装置を使用する。上顎の高径不足に対しては前歯部に拳上板を装着し、側方歯の挺出を弾線つき床や垂直ゴムで行ったのちに前歯の挺出をはかる。 Harvold は側方歯挺出後の保定には側方歯舌面の付加突起に口蓋床からの弾線を当てて行おうとしている。

前歯部開咬の改善はマルチブラケットの主線の step と垂直ゴムで行い、筋機能治療で治療後の安定をはかる必要がある。なお、欠如歯部に対して歯の移動を行うか、補綴処置を行うかは早期に決定することが必要である。また破裂部の過剰歯や減形成歯も、顎裂部の歯槽骨吸収を防ぐために保存することがある。永久歯列期での骨移植は顎発育への悪影響はないといわれている。

以上の動的治療後には保定のため、 Hawley や Begg などのレジン床、金属保定床、欠損補綴を兼ねた局部床義歯、接着ブリッジなどを装着する。保定装置装着は動的矯正装置撤去と同時に行う必要がある。永久補綴を要する場合には成人期にブリッジや局部床義歯を調製する。この際に短期間の矯正を必要とする場合がある。

矯正の限界を超えた顎矯正手術の適応例に対しては、手術年齢の女性16歳、男性18歳を基準として、その1年ほど前より術前矯正を行う。術前矯正の目的は、1:個々の歯の leveling を行う、2:歯列弓を放物線型とし咬合平面を平坦化する、 3:上下顎基底骨上に歯を配列するなどである。なお、この時期における著しい上顎の狭窄に対しては、 Koleの皮質骨切り術や Lines の Le Fort I

型骨切りを利用する上顎急速拡大を行うことがある。外科手術後には術直後のあと戻りに対処し、その後に術後矯正を行う。術後矯正では上下顎咬合関係の安定化、咬頭嵌合位と下顎頭安定位の一致、下顎運動時の離開咬合などを与えるようにする。動的治療後には保定に移行する。なお外科手術計画に際して、上顎骨移動では顎裂部骨移植や咽頭弁移植術、下顎骨移動ではオトガイ形成などの付加手術を考慮すべきである。

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